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2023.10.1

Business

インドネシアの電力供給を支える地熱発電

この記事は2022年6月に公開された内容です

気象の影響を受けにくい再生可能エネルギー

地熱発電は再生可能エネルギーを利用した発電方法の一つであり、基本的な仕組みは、火山の地下などにあるマグマの熱によって温められた地下水の蒸気でタービンを回し、発電を行うというシンプルなものです。化石燃料を必要としないため環境負荷が低く、燃料市況に電力価格が左右されないこと、太陽光や風力発電など気象の影響を受けやすい他の発電方法と比べて、安定した電力を得られることなどが大きな特徴です。

一方で、地熱発電は地中深く井戸の掘削を進めなければ、発電に利用できる十分な蒸気が得られるかどうか分からないというリスクを伴っています。実際2,000~3,000メートルの井戸を掘り進めたのちに、十分な蒸気が得られないことが分かり、発電プロジェクトが頓挫してしまうこともあります。地表からの調査ノウハウ、掘削開発のための資金と時間、さらには多少の運を必要とするのが地熱発電事業なのです。

ウルブル生産井からの集蒸気配管(左はウルブル発電所、右はラヘンドン発電所)

世界第2位の「地熱大国」インドネシア

発電インフラのビジネスモデルは、大きく「EPC」と「IPP」の2つに分けられます。EPCとは、発電所の設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)を受託する建設工事請負のことです。EPCでは、通常完成した施設を現地政府や企業に納入した時点で完了します。IPPは独立系発電業者(Independent Power Producer)を意味し、事業者は発電施設のオーナーとなって継続的に売電を行います。

住友商事は、将来の電源多様化を見据え、地熱発電が大型化・実用化された黎明期から着目し、1970年代に関連設備の納入を開始しました。世界第2位の地熱資源を有するインドネシアでは、1995年に地熱発電への取り組みを開始し、1997年に初の地熱発電所EPC案件を受注、今日まで計12案件(計17ユニット/総発電量約900メガワット)に関わってきました。これは、同国における地熱総発電容量の約1/3を占め、日本の総合商社ではトップの実績です。

当社が多くの受注実績を持つ要因の一つに、パートナーシップの力があります。当社は地熱発電所用蒸気タービン製造の最大手である富士電機との協業に加えて、土木・据え付け工事や現地調達を担当するインドネシアのレカヤサの協力を受けて、数々の地熱EPC案件を成功させてきました。当社が近年手掛けた代表的なEPCには、スラウェシ島北部のラヘンドン地熱発電所、スマトラ島南部のウルブル地熱発電所などがあります。

地熱発電所の多くは、山奥の未開の地。ウルブル発電所があるスマトラ島では、スマトラタイガーと遭遇する恐怖とも戦った(左はウルブル発電所、右はラヘンドン発電所)

粘り強く進めたIPPプロジェクト

インドネシア初となる当社の地熱IPPプロジェクトは、2011年にスタートしたスマトラ島西部のムアララボ地熱発電事業です。

地熱発電所の建設は、一般に火山近くの未開の地で、手つかずの山地を切り拓くところから実際の開発はスタートします。とりわけムアララボは、最も近い空港から陸路で4~5時間を要する極めてアクセスの悪い場所です。12年3月、当社がパートナーと共に出資する現地事業会社はインドネシア国営電力会社と30年間の長期売電契約を締結し、インドネシア財務省からの政府保証を得たのち、現地で試掘開発に着手しました。

しかし、試掘の結果、当初見通しより発電規模を縮小せざるを得ない事態となり、政府および国営電力会社とプロジェクトの諸条件について再交渉を行いました。再交渉の妥結には2年弱を要しましたが、政府・国営電力会社・事業者がお互いに納得できる内容で合意することができ、その後発電所建設のファイナンス組成に取り組みました。最初の長期売電契約締結から5年後の17年3月にようやくファイナンスクローズを達成し発電所の建設を開始しました。

この発電所建設において、当社はEPCも請け負いました。「当社にとってインドネシア初の地熱IPPプロジェクトを期限通りに完工して、インドネシアの電力供給に貢献する」という目標に向け、他のIPPプロジェクトで培った事業者としてのノウハウのみならず、豊富な地熱EPCの経験も生かし、当社電力ビジネスの総合力をもって完工を目指しました。そして、19年12月、無事商業運転を開始することができました。発電所は現在に至るまで順調に稼働を続け、地域の人々の暮らしを支えるクリーンで安定した電力を届けています。

インドネシアにおいて日本企業が試掘前の最も初期の段階から海外地熱鉱区を開発した前例はなく、インドネシア国内の制度が未整備な中でプロジェクト諸条件の交渉やファイナンス組成に時間がかかりましたが、無事に発電所の完工を実現し、次のプロジェクトにつながる土台を築くことが出来ました。現在、ムアララボでは、完工済みの1号機の隣接地に2号機を増設する発電所の拡張プロジェクトを推進しています。この拡張案件は、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想に基づく日尼両政府の支援を受け、25年4月にファイナンスクローズを達成し、当社はEPCも請け負い、27年10月の商業運転開始に向け建設を進めています。また、同じスマトラ島における次の地熱IPPプロジェクトであるラジャバサ地熱発電事業の開発も進めています。

ムアララボ発電所の生産井掘削現場と全景

2034年までに地熱発電容量を3倍に

世界第4位の2億8,000万人を超える人口を擁し、年率5パーセント前後の経済成長を続けるインドネシアでは、再生可能エネルギーへのシフトと安定的な電力供給が国家的な課題となっています。インドネシアが有する豊富な地熱資源を利用した地熱発電は、この2つの課題を同時に解決する有効な手段として認識されており、同国政府は、現在の2,600メガワットの地熱発電容量に対し、2034年までに5,200メガワットを追加する計画を立てています。そして当社には、過去20数年間に及ぶ地熱発電所建設とムアララボ地熱発電事業の経験を生かし、この計画の実現に寄与していくことが期待されています。

地熱発電事業には、他の電源開発にはない特有のリスクが存在します。当社はこれまでに蓄積してきた知見・ノウハウをもとに、政府系機関、金融機関などと連携し、リスクをマネージしながらインドネシアの低炭素化社会の実現に寄与していきます。

現場では良好なコミュニケーションが非常に大切。地元民との交流や現地での雇用にも力を入れている

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