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2025.11.21

Culture

映画『TOKYOタクシー』 ~11月21日公開記念~
俳優の迫田孝也さんへインタビュー

住友商事では、50年以上にわたり社員に愛されている社内報があります。その中から、各界の著名人に社員がインタビューする人気企画をご紹介します。

巨匠・山田洋次監督の最新作、映画『TOKYOタクシー』が11月21日に公開されます。 住友商事は1993年に公開された『学校』から山田作品への製作に継続して参加し、本作で18作品目となります。

その最新作『TOKYOタクシー』に出演されているのが、俳優の迫田孝也さんです。
体育教師を目指していた大学3年生の時に、山田洋次監督の撮影クルーとの出会いをきっかけに俳優の道へ。現在は、犯人から弁護士役まで、印象的な演技で視聴者を引き付けてやみません。今回は、『TOKYOタクシー』への思い入れや俳優としての姿勢などを、熱く語っていただきました。サービス精神たっぷりなお話ぶりに、インタビュアーたちも夢中で耳を傾けました。

  • 迫田孝也(さこだ・たかや)

    1977年生まれ、鹿児島県出身。主な出演作品として、ドラマではNTV『真犯人フラグ』(21)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(22)、TBSテレビ日曜劇場『VIVANT』(23)、『御上先生』(25)。映画では『キネマの神様』(21/山田洋次監督)、『ノイズ』(22/廣木隆一監督)、Netflix『シティーハンター』(24/佐藤祐市監督)、『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』(25/三池崇史監督)。『TOKYOタクシー』(山田洋次監督)が25年11月21日に公開。

“日常の中にある奇跡”。心あたたまる『TOKYOタクシー』

社員 憧れの山田洋次監督の現場は、どのような雰囲気ですか?

迫田 最新作の映画『TOKYOタクシー』は、僕にとって山田組での3作目ですが、「逃げ出したい怖さ4割、心地よさ6割」という緊張感が常にあります。誰一人意識を緩めず、山田監督が描きたい世界をみんなで創りだそうと、全員が同じ方向を見ているので、曖昧さが一切許されない。その張詰めた空気は、最初は怖いけれど次第に心地よさに変わっていくような感覚がありました。

社員 『TOKYOタクシー』で印象に残ったシーンは?

迫田 タクシー運転手の木村拓哉さんとお客の倍賞千恵子さんの車内での会話です。最初は距離感があるのに、時間が進むにつれて空気が和らいでいく。二人の呼吸が合っていく過程に、自分も一観客として胸が温かくなりました。

社員 この作品で、監督が描きたかったものとは?

迫田 監督の言葉の中でいうなら、「日常の中にふっと現れる“奇跡”」でしょうか。観客がこの映画をきっかけに自分の日常を見つめ直した時、人生の中でそういう奇跡のような一瞬があったなと振り返れる作品なのではないかと思います。笑って、少し切なくて、後からじわっと湧いてくる温かい感情―そこにドラマチックな世界を込めたかったのかなと、感じていました。

© 2025映画『TOKYOタクシー』製作委員会

社員 ご自身の役どころは? 完成後に新しい発見はありましたか?

迫田 倍賞さんの若い頃を蒼井優さんが演じているのですが、僕は蒼井さんの夫役です。これが、ひどい奴なんです(笑)。観客にそう思わせること自体が僕の役割ですが、やり過ぎると不自然に見えるので、その人の人柄としてにじみ出るようにしました。
新しい発見としては、過去と現在が並走する構成ですから、倍賞さんの若い頃の夫を演じている僕は、現在のパートは台本でしか知らないわけです。ですから、完成後につながったものを初めて見た時は、自分が出ている作品ですがすごく新鮮に感じました。また、現代の倍賞さんと若い頃の蒼井さんが自然につながっていて、二人とも素晴らしい役者さんだなと思いました。

壁を乗り越えたことで見えた新しい景色と成長した自分

社員 作品では描かれない役それぞれの背景も意識して演じるのですか?

迫田 役によりますが、最近なら弁護士を演じた時に、例えばこの人は何歳ぐらいから弁護士を目指して、何歳で試験に受かったのかなど、その人の人生の設計図のようなものを考えます。そこに、迫田孝也の性格や経験をプラスして、表現することが多いと思います。監督やプロデューサーに後から要素をプラスされることもあって、その場合は、じゃあそれによってどう変化したのかを想像して調整していくというか。極端な例では、途中で「あなた犯人です」と言われることも。そんなつもりはなく演じていたのですが、そんな時はわかりましたと切り替えて、新たにその人物をつくり直します(笑)。

社員 ご自身の中で、印象に残っている作品というと?

迫田 自分が本当におじけづいた作品がありました。共演者の方々、スタッフさんたちがそれまで物語を素晴らしく創り上げてきて、最高潮のクライマックスは僕の演技次第という状況になりました。もし、ここで僕がコケたら全てが無駄になる。今もよく覚えていますが、そういう恐怖を感じたことがありました。すごく重荷だったのですが、最終的に「知るか! 自分は自分の役割を果たすだけだ」と覚悟を決めて集中したら、プレッシャーをはねのけうまくいきました(笑)。あの、考え続けた幾晩かのことは忘れられませんが、その作品をやり切ったことで自信が付いた気がします。壁を乗り越えれば違う景色が見えることがわかり、その後は楽しんで取り組めるようになりました。背負っていたものをいったん外して、俳優としてのセンスが研ぎ澄まされていくというか、自分自身が2ランクアップしたような気分でした(笑)。

与えられた環境の中で最大限に輝く

社員 いわゆる“怪演”といわれる役柄が多いことについては? 他の作品への影響はないのでしょうか?

迫田 一時期、犯人役ばかりやっていた頃のことですよね。別に何も秘密を持っていないのに、視聴者の方から「あいつ怪しい」と見られたり(笑)。今は迷いはないですが、一時期は「犯人っぽさ」のようなものを出した方が作品が面白くなるのではと迷ったこともありました。

社員 私生活でも役を引きずったりするのですか?

迫田 基本はスイッチを切ります。ただ、役によって意図的に“引きずる”時間を持つこともあります。それによって、役柄の個性が熟成されて深みが出る場合も。逆に、経験や知識をいったん捨ててゼロから作り直すことも大切。持続と刷新、両方を使い分けたいです。

社員 何かの記事で、「どんな場面も100パーセント楽しんで勝負する」と書いてあったのを読んだのですが、その気持ちを維持する方法は?

迫田 それは、若い頃の記事ですかね(笑)。わりと自分はポジティブな性格で、きついと思われる仕事でも、自分の中での目標を決めてそれを楽しむことに集中します。そうすることで乗り切ってきました。とはいえ、自分にないものを求められジレンマを感じることもあるわけです。そういう時は、「水は方円(ほうえん)の器に従う」という言葉を思い出します。水は与えられた環境の中で形を変え順応するという意味で、自分に置き換えると、窮屈に見える器でもどんな姿なら輝けるかを考えます。もし、それが最初に考えていたものと違う形でも、その流され方が面白いと思い、そこに俳優の面白さを見出します。

故郷のよさを再認識し、より深まった愛着と思い

社員 鹿児島県の薩摩大使として、地元への思いを聞かせください。

迫田 NHK大河ドラマ『西郷どん』の出演が転機でした。俳優として鹿児島で認知されて、一気に僕の名前を知っていただけました。でも、スタッフや共演者から「鹿児島の名物は?」と聞かれて答えられず、そこから自分でも学び直しました。そして、鹿児島の豊かさに気づいて、自称・薩摩大使と名乗っていたら、後で本当に大使に任命されました。でも、すでに多くの方が大使として活動されていて、僕は208番目(笑)。それ以来、鹿児島にまつわる作品にもいろいろ出演させてもらいました。今は、自分が生まれ育った地元に、何か恩返しがしたいと思っています。

社員 鹿児島でお薦めの焼酎を一つ挙げるとすれば?

迫田 「赤(せき)兎(と)馬(ば)」という芋焼酎。飾らないおいしさで手に入りやすいです。お茶割りタイプも評判です。

社員 作品を通じ“第2の故郷”も増えたそうですね。

迫田 佐賀県は江藤新平を演じたご縁、長野県の上田市はNHK大河ドラマ『真田丸』への出演など、各地でよくしていただき第2のふるさとが増えています。そうしたドラマの影響で地域も盛り上がってくれるとうれしいです。

社員 広島大学での4年間はどうでしたか?

迫田 本当は教師になるつもりだったので、1~2年生はその勉強、3年生で山田監督のクルーに出会ってからは、俳優を目指して演劇系の人たちの話を聞きに行ったりしていました。学生生活は“だらけていた”時期でもあるのですが(笑)、同時に夢と出会い、今のキャリアをスタートさせた思い出深い時期でした。

「続ける」ことは、未来へつなぐために必要な要素

社員 『住商こみゅにてぃ』の今期のテーマが「つぐ」です。次世代につないでいきたいものとは?

迫田 僕が俳優を続けてこられたのは、才能があったからではなく辞めなかったからです。続けることはしんどいし、選択肢が多い時代ほど、一つに踏みとどまるのは難しい。新しいものに変わらなきゃという風潮もありますが、変えない選択にも意味があります。たとえ古臭いようでも、同じことを続けられるのは大きな才能です。ですから、「続ける」を誇りにしてほしいと思います。

社員 続けるための工夫は?

迫田 好きな事なら続けられると思います。やはり、最後はそこに集約されるのではないでしょうか。

社員 住友商事社員が一歩を踏み出す時に背中を押す言葉があれば。

迫田 「あるがままに」ということです。頑張らなきゃいけない時は誰にもあると思います。それを経験しないと前進することはできません。そして、その時に自分が感じたことを、感じたように素直に取り組めばいいのではないかと思います。 『TOKYOタクシー』 という作品に例えていうなら、日々の中に出会いや宝物はいっぱい隠されています。その、キラリと輝くものを見逃さないように、自分の日常に目を向けてほしいと思います。

迫田孝也さんの最新作
© 2025映画『TOKYOタクシー』製作委員会

『TOKYOタクシー』
配給:松竹 
11月21日(金)全国ロードショー
監督:山田洋次

タクシーの運転手・宇佐美浩二(木村拓哉)は、娘の入学金や車検代に頭を悩ませていた。そんなある日、浩二のタクシーに髙野すみれ(倍賞千恵子)が乗車することに。そのたった1日の旅がやがて二人の心を、人生を大きく動かしていく。

ヘアメイク: 大上あづさ
スタイリスト:
田中トモコ/西田愛梨(HIKORA)
衣裳:ロックポート
http://shop.rockport.jp/

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