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2024.12.18

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齊藤工さんが学生応援団と考え抜いた、東京国際映画祭「エシカル・フィルム賞」のかたち

住友商事(以下、住商)が支援する東京国際映画祭(TIFF)の「エシカル・フィルム賞」。「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」というエシカルの理念に照らし、受賞作品を選出する賞となっています。2024年11月に都内で開催された第2回授賞式では、審査委員長を務めた俳優・映画監督の齊藤工さんと学生審査員3名が、オリジナリティーあふれる審査の過程や裏側を明らかにしました。授賞式やトークセッション、そして齊藤さんへの特別インタビューを通じて見えてきた「エシカル・フィルム賞」の真価とは?

エンタメをエシカルな選択の入り口に。住商が支援するエシカル・フィルム賞とは

東京国際映画祭のエシカル・フィルム賞は、映画を通して環境・貧困・差別といった社会課題への意識や多様性への理解を広げることを目的として、2023年に新設された賞です。第2回となる今年も「人や社会、環境を思いやる考え方・行動」という「エシカル」の理念のもと、選考が行われました。

住商では、「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」をはじめとする「住友の事業精神」をよりどころに、国や社会全体をより豊かなものにしていくという長期的な視点を大切に受け継いできました。社員一人ひとりが社会課題解決に取り組むプログラム「100SEED」など、さまざまな事業や取り組みを通じてエシカルな社会づくりを後押ししています。

また、住商は映画製作・配給を手掛けるアスミック・エース(JCOMグループ)の運営や、1988年公開の映画『AKIRA』を皮切りに、『学校』シリーズから最新作『こんにちは、母さん』まで山田洋次監督作品に出資するなど、映画業界でビジネスを展開してきました。そうした事業で得た知見を生かし、エンターテインメントを通じてエシカルな選択に触れてもらうことを目指して創設されたのが、エシカル・フィルム賞です。

「4人でたどり着いた一つの答え」。選考のプロセスもフェアでオープンに

今年のエシカル・フィルム賞は、ノミネート3作品の中からマティ・ディオップ監督の『ダホメ』がグランプリに選ばれました。西アフリカのベナン共和国にかつて存在したダホメ王国から、フランスに接収された美術品が返還される過程を追い、植民地主義について考察するドキュメンタリーです。

ノミネート作は粒ぞろいで、『ダホメ』は第74回ベルリン国際映画祭で最高賞にあたる金熊賞を受けています。残る2作『ダイレクト・アクション』『Flow』も世界の映画祭で数々の賞を受賞しています。その中で、『ダホメ』がグランプリに選ばれたのはなぜでしょうか? エシカル・フィルム賞授賞式のトークセッションで、審査委員長の齊藤工さんは、「一応自分なりの順位を決めて審査会に臨みましたが、ともに審査を担った学生応援団の3名と議論を交わすうちに、その順位がどんどん変化していきました」と過程を明かしました。

監督の代理として受賞のあいさつを述べた、ベナン出身で株式会社アフリカ・ネットワーク 代表のゾマホン・スールレレ氏

「グランプリを1作品選ぶのではなく、どれを選べば3作品とも皆さんに届けることができるか」(河野はなさん)。「賞を与えることで、作品がその後どういう風に世の中に出ていって、受け止めてもらえるだろうか」(縄井琳さん)。学生たちのこうした視点が、齊藤さんに変化をもたらしたそうです。

また、「審査員で議論する過程自体が、エシカルという理念にすごく合った構造だった」(佐々木湧人さん)という意見も。審査会では全員が発言しやすい環境を心がけながら、約1時間50分にわたって活発に議論を交わし、自然と結論が出たそうです。齊藤さんは、「国内外の多様な社会問題を知るきっかけになるという、エシカル・フィルム賞の役割を考えた上で、『ダホメ』を3作品の先頭に立たせるというのが、4人でたどり着いた一つの答えでした」と総括。映画に真剣に向き合う学生応援団の3人を同じ「映画人」としてリスペクトする齊藤さん。「審査会自体もエシカルであるべき」と、受賞作決定後にTIFF公式サイト上で審査内容を公開しました。ブラックボックス化しがちな審査の過程をオープンにすることで、公平性や透明性を保ち、またそれを誰でもアクセスできる状態にしておくことで次の変化につながるように、という齊藤さんの願いが込められています。

トークセッション終盤の質疑応答では、参加者から「エシカルの意味」について問われる場面も。それに対して齊藤さんは、「自分以外の他者や団体の個性を理解し、時として思いやりみたいなものがエシカルの意味だと今は捉えているんですけど、もしかしたら多少変化していくんじゃないかなとも思っています」と回答しました。

多様な意見を持つ人々が、対等に向き合い、そして新たな価値をつくりだす……。より良い社会の在り方へのヒントが、垣間見えたような第2回授賞式となりました。

一般の方からの質問を受け、笑顔で応じる齊藤さん(左)

齊藤工さん特別インタビュー
真にエシカルな映画界を作るために、一人の人間としてできること

  • 齊藤 工

    映画『昼顔』『シン・ウルトラマン』など話題作のほか、地上波、Netflixのドラマなど多数出演。映画監督としては初長編監督作『blank13』(18年) で国内外の映画祭で8冠を獲得。ドキュメンタリー映画『大きな家』(24年)や、ダニー・トレホら出演のハリウッド映画『When I was a human』(公開日未定)ではプロデューサーを務めている。被災地や途上国での移動映画館主宰や、白黒写真家など多岐にわたる表現分野で活躍。

トークセッションの中で、審査会の構造自体がエシカルだったというお話がありました。審査委員長として、どのような点に留意しながら今回の審査に臨まれましたか。

最初に打診をいただいた時、形式的な決定権は審査委員長にあると説明を受けたのですが、トップに権限がある構造というのは、この賞にふさわしくないのではないかと思いました。肩書というノイズを消して、審査委員のお三方とライトにコミュニケーションを取りながら、審査を進めていこうと考えていましたね。

結果として、それぞれの視点が混ざり合う中で作品の捉え方が熟成されていき、順位が次々入れ替わるというエモーショナルな体験をすることに。こんな風に、誰かの意見を受け入れ、それによって自分の中に起こる変化も柔軟に受け入れることこそが、「エシカル」の本質なのではないかと感じました。

審査のプロセスを公開するというのも、斬新だと思いました。

先ほど、マレーシアのメディアの方が「エシカル・フィルム賞は東京国際映画祭以外で聞いたことがない。他の映画祭でもこの部門を設立すべきだ」とおっしゃっていました。審査のプロセスや、その録音を公開することも含めて、国内外のさまざまな映画祭がこの取り組みをサンプリング(※)してくれたらいいですね。

※ある対象から一部を抽出し、それを利用・分析すること。音楽でよく使用される技法。

画像左:「エシカル・フィルム賞」の審査会で議論する齊藤工さん(中央)、画像右:審査委員を務めた学生応援団の河野はなさん(左)と佐々木湧人さん

20代の頃から映画業界に身を置き、被災地や途上国での移動映画館「cinéma bird」の発起人となるなど、映画に深く関わり続けてきた齊藤さんから見て、現在の日本の映画業界やエンタメ業界はエシカルだと感じますか?

まだまだエシカルじゃないですね。作品の大小問わず、バジェット(予算)が確保されている現場は本当に少なくて、無理をするのが前提というか、反エシカル的な体制や環境が当たり前としてあります。業界全体で変わっていく必要があるのですが、まずは自分ができることから、小さい取り組みでも、とにかく行動に移していかなければ変わらないままだと思っています。

具体的に進めている取り組みや、今後進めていきたい取り組みがありましたら教えてください。

現場の食のクオリティーを上げることは、自分の天命だと思っています。どのような立場で作品に関わっていても、食べたものがそのままクリエイティブにつながるという実感があるので。良い作品を作るためにも、管理栄養士の方にサポートいただくことを義務付けたほうがいいと思い、映適(日本映画制作適正化機構)に打診しているところです。

そのほか、自主的にトライを続けているのは、託児所を現場に設ける取り組みです。撮影場所から少し離れたところに専用ルームを設けて、ベビーシッターさんに見ていただくなど、それほど予算をかけずにできるのに、どの現場でも慣例化されていないことがあります。

託児所を設けることで、働きやすくなる方も増える気がします。

日本の映像業界には、「遠慮」という負の遺産があり、結婚や出産を機に辞めていってしまう女性の方が本当に多いのです。もちろん、子育ては女性だけがするものではありませんが、多くの女性の才能を失ってきていることも事実。今年の東京国際映画祭でも、働く女性監督たちにスポットが当たっていますが、日本の現場もそろそろ変わっていかなければいけません。映画人としてというより一人の人間として、まずは自分の手の届く範囲で、できることに取り組んでいこうと思います。

進化する東京国際映画祭。映画を中心とした幅広い取り組みに挑戦

アジア最大級の国際映画祭である、東京国際映画祭。1985年にスタートしたこの映画祭は、国内で唯一、国際映画製作者連盟の公認を受けています。

第37回東京国際映画祭は、24年10月28日~11月6日の10日間、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区などで開催。110の国と地域から2,023本の応募が寄せられる中、厳正な審査を経て最優秀賞を競う「コンペティション部門」や、次代を担う才能の発掘・育成の助成、映画フィルムの保存、海外における日本映像の普及宣伝など映画に関連する多彩な催しが行われました。

23年に掲げた「東京から映画の可能性を発信し、多様な世界との交流に貢献する」というミッションに則し、今年は女性監督の作品、あるいは女性の活躍をテーマとする作品に焦点をあてた「ウィメンズ・エンパワーメント」部門を新設。また、昨年より住商が支援している「エシカル・フィルム賞」も継続され、11月5日に受賞作発表と表彰が行われました。

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