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2024.1.19

Culture

入社後1年で新会社設立。「Hakobune」が創出する新たなEVビジネスモデル

企業と従業員が通勤用EVをシェアする「サブスクサービス」、職場での「再生エネルギーによる充電」、車とあらゆるモノをつなげる技術「V2X(※)」の掛け算を、ワンストップで提供するサービス「Hakobune」。プロジェクトを推進した高橋雅典は、住友商事へキャリア入社後、わずか1年足らずで同社を立ち上げました。脱炭素社会の実現や、魅力的な人材採用の切り札として、全国の中小企業からの引き合いが相次いでいると言います。「EVがヒトに加え、電気を街じゅうに運ぶ快適で便利な生活様式づくり」を描く同社の立ち上げのストーリーをひもときます。
※「Vehicle to X」の略称


  • 株式会社Hakobune 代表取締役社長

    高橋 雅典

    大手自動車メーカーに23年間勤務後、 2022年5月に住友商事へ入社。前職のモビリティサービス事業経験などを生かし、23年4月に「通勤EVサブスク×職場充電サービス×V2X」を提供する株式会社Hakobuneを創業。新規ビジネス立ち上げの先駆者として、住友商事に新たなカルチャーを吹き込んでいる。フラットな社風が特徴のHakobune社内では社員から「マサさん」と呼ばれる。

“ノアの箱舟”から着想を得た「Hakobune」への想い

まず、Hakobuneのサービス概要や特長について教えていただけますか?

Hakobuneは、従業員向けの通勤用EVサブスクと再生エネルギーを活用した職場充電、そして電気を自宅に持ち帰って利用できるV2Xを掛け算したサービスを提供しています。現在、日本全国で通勤に使われているマイカーは約2,500万台あると言われています。この1台1台を会社と従業員がシェアすることで車通勤の当たり前を変えていき、「個人・企業・社会」三方よしのサービスを目指しています。また、日本国内を走る8,200万台ほどの自動車のうち、3割強が通勤用途であることから、脱炭素の面でも意義ある取り組みと言えます。

EV普及に伴う課題は、主に航続距離に対する不安や充電インフラの不足が挙げられます。しかし、実際に通勤で走行する距離は平均30kmほどであり、航続距離が150kmのEVであれば週に1回の充電で済みます。また、通勤に使われるマイカーは、基本的に全国どこでも朝の出社時と夕方の帰宅時に走るため規則性・画一性のある車の使い方となっています。

逆を言えば、それ以外の時間はずっと会社の駐車場に止まっているので、帰る時間までに「タイヤが4つ付いた蓄電池」を満タンにしておくことができます。もちろん、自宅に持ち帰って生活の中で活用することも可能です。つまり、EVを職場充電できる設備を整えれば、マンションや集合住宅に充電器を設置しなくてもいいのです。

新しい発想で人や社会に貢献するHakobuneですが、ユニークな社名に込められた想いを教えてください。

Hakobuneという社名は、聖書に登場する“ノアの箱舟”から着想を得ました。聖書には、将来大洪水が起きることを想定して、ノアの箱舟が作られたことが書かれています。Hakobuneも同様に、100年に1度の大変革期と呼ばれる自動車産業を救う担い手になりたいと思い名付けました。また、“EVで街じゅうに電気をハコぶ”という意味も込められています。

「もう一度挑戦したい」と思わせてくれた息子の存在

前職の自動車メーカーから、新たな挑戦の場として住友商事を選んだきっかけはなんだったのでしょうか?

もともと、新卒で大手自動車メーカーに入り、宣伝部やディーラーコンサルタント、中期経営計画策定などを経て、EVのカーシェアリング事業の立ち上げに参画していました。

ひとつの転機になったのは、40歳で生まれた息子の存在でした。できないことにひたむきに挑戦しては失敗し、いろんなことを学んでいく姿を見るうちに、「自分はこのままでいいのだろうか」と考えるようになったんです。自ら限界を決めてブレーキをかけてしまっている現状を、もう一度変えないといけない。息子が20歳になるとき、自分はちょうど60歳。息子と肩を並べ、日々一緒に成長していきたいという意識が芽生えました。

2023年10月28日~11月5日にかけて開催された「ジャパンモビリティショー2023(以下JMS2023)」出展の様子。台湾のEV開発コンソーシアム(共同事業体)「MIH」のジャック・チェンCEOと
「JMS2023」ではブース出展のほか、「EVがもたらす誰もが幸せに暮らせる社会のありかた」をテーマに、(写真左から)スマートドライブ・北川烈さん、ジャック・チェンCEO、JTBコミュニケーションデザイン・黒岩隆之さんと共にパネルディスカッションを開催した

当時は部長級職に就いていて、ありがたいことに重要な責務や刺激のある仕事をアサインされ、さらなるキャリアアップを目指すこともできました。それでも、「安定した生活や仕事をあえて一度捨てて、ゼロからのチャレンジをしてみるのも自分らしいかも」と、何か新しいことに挑戦したいと強く思いました。

そんな矢先に、タイミングよく住商のキャリア採用の話が舞い込んできたんです。今まで多くの総合商社と仕事をしてきましたが、住商の社員に共通して感じたのは「人の温かみ」でした。社外の人間なのに、まるで社内の人間のように仲間意識を持って接してくれたことから、「住商の人と仲間になって働いてみたい」と思い、キャリア採用の門をたたきました。

住商に根付く「やると決めたらやり切る」責任感と実行力

入社後1年以内に立ち上がったHakobuneですが、この推進力の源はどこにあるのでしょうか?

Hakobuneのような新事業は、多くの人が「やるべきだ」と賛同してくれます。一方で、会社を起こすべきか、あるいはあくまでひとつの部署として取り組むべきか、という点については慎重な意見もいただきました。私自身、必ずしも会社という形にこだわらず、専用のチームを組成したほうが良いケースもあると認識しています。ただ、他のビジネスとの兼ね合いもある組織の中では、どうしても優先順位をつけなければなりません。市場や社会を創っていくには、強い志を持ってブレずに推進する必要もあると思います。今や当たり前になったスマホやEVも、昔はそうではありませんでした。そう考えると、Hakobuneはやはり会社として独立し、信念を持って、盲目的に信じて突き進む突破力が絶対に必要だと考えたんです。会社を立ち上げると決めたからには、Hakobuneのビジョンに共感する人を社内で増やしていき、企画の遠大性と社会への影響の大きさを、想いと共に伝えて理解していただくしかないなと思いました。

確かに、表向きは私が音頭を取り、実現に向けて動いてきましたが、自分だけで会社をつくったとは正直全く思っていません。短期間で会社を立ち上げるという到底無理なことを実現できたのは、ひとえにHakobuneの理念に共感してくれた仲間であるプロパー社員やキャリア採用社員のおかげです。

設立から約9カ月。今では十数人のメンバーが集い、Hakobuneのサービスを全国に広めようと奔走している(写真左から、関優、森本貴子、高橋、福田絵未)

住商に入社してたった半年。社内のルールやお作法もわからない自分を支えてくれた仲間、想いを形にするための工夫に自らが持つプロフェッショナリズムをチカラとして貸してくれた仲間。関係各所の方々が協力し、試行錯誤しながら一緒に頑張ってくれたからこそ、これまでにない推進力とスピード感を持って、皆で会社を立ち上げることができたのだと思います。

その中でも、当社の宝と感じたのは、住商社員が持つ「やると決めたら、最後までやり切る責任感と実行力」です。部門を超えてリソースを活用でき、“同志”が有機的に集まって想いを形にしていく。そんなアグレッシブな住商パーソンの一員になれて、本当に良かったと感じています。

自分の「信念」と「やりたいこと」を明確にするのが大切

高橋さんが普段仕事をする上で意識していることはありますか?

私が意識しているのは「モノの見方を工夫する」ということです。

一度しかない人生なら、ポジティブで楽しいほうが良いですよね。自分は「失敗」という言葉をあまり使いません。なぜなら何も失っていないし、敗れていないからです。強いて言うなら「未成功」です。むしろもう一度やれるチャンスや学びを得ているわけで、何度もやり続ければいつか納得した成果を上げられます。こう考えることでメンタルも安定するし、意外と難しい局面ほど楽しく感じるものです。大事なのは本気で、全力でやることです。そうすれば経験値や知見も、よりたくさん蓄積されてきます。その上で「自分は何をしたいのか」を自らに問いかけて明確にし、「武器を持つこと」と「選んだ道に誇りを持つこと」がとても重要です。これらがないと、日々仕事しても幸せを感じる時間より、辛い時間のほうが多くなってしまうような気がします。

そして、自由に仕事に取り組める環境づくりを支援してくれる会社の仲間や、家族に感謝することです。

オフィス内に飾られている言葉「美点凝視」とは、「相手の優れた部分に目を向ける」という意味。チームビルディングにおいて高橋が大切にしている考え方だという

最後に、今後の事業の展望をお聞かせください。

今後は、初年度に培ったノウハウを生かし、より多くの新規企業様にHakobuneを導入していただけるよう営業面を強化していきます。日本、欧米、アジアも含めた各社EVラインアップをそろえ、ゆくゆくは「EVといえばHakobune」と思ってもらいたいですね。

さらに、事業展開と並行し、お客様や市場のニーズ、モビリティに必要な要件をくみ取りながら、事業競争力の礎を築いていく予定です。

大事な視点は、モビリティでの移動は間違いなく人々の生活に欠かせませんが、それだけが全てではないということ。移動の前後も含めた生活のさまざまなシーンにおいて、デジタル技術を活用したシームレスなUXもデザインして、より豊かなサービスへと進化させていきます。

将来的には、日本でつくった事業モデルをベースに海外展開も視野に入れ、スピード感とスケール感を持った事業展開を計画していますので、ぜひご期待ください。

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